点や曲線などを繰り返し描き、画面を覆い尽くすことで平面作品を制作してきた大和美緒が、株式会社島津製作所とコラボレーションするにあたり、計測機器、医用機器、航空機器、産業機器といった同社の持つ多様な製品や技術の中から関心を抱いたのは、分析計測技術であった。大和は同社の担当者からのアドヴァイスを受け、プランを練り上げ、デジタル顕微鏡を用いて作品を制作した。
展示台の上に並べられた195 枚に及ぶガラス板には、 《under my sikin》という作品タイトルが示すとおり、光学顕微鏡によって観察された大和自身の血液細胞が、鮮烈な赤色の絵具によって描かれている。ガラス板ごとに絵具の大きさにいくらかのばらつきがあるのは、顕微鏡の倍率の差によるものである。大和はここで、例えば、血液細胞の輪郭さえもはっきりと見て取れるほどの高倍率で観察したイメージを描く際には絵具を粒状に盛り上げるなど、光学顕微鏡を通して得られたイメージを出来る限り忠実に描写している。偶然性を伴った極小のイメージを集合させることで、ひとつの全体を形作り、ダイナミックな運動を感じさせること。この作品においては、自身の血液細胞のイメージをモティーフにしているという点において、大和のこれまでの作品に見られるそうした特徴が、よりはっきりと現れている。おびただしい数の赤い点の集合は、照明がガラス板の下に落とす影によって奇妙な浮遊感を持ったイメージとして、鑑賞者の眼前に広がる。それは、顕微鏡が捉えた大和自身の血液細胞の再現イメージであることを超えて、より広く私たちが「生命」と呼ぶものに備わる運動性を感じさせてくれるだろう。
STEAM THINKING -未来を創るアート京都からの挑戦
国際アートコンペティション スタートアップ展 / 展覧会テキストより引用